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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(オ)736号 判決 1979年2月22日

上告人

杉山金右衛門

右訴訟代理人

城田冨雄

岩田洋明

被上告人

杉山昭示

杉山一

右両名訴訟代理人

小山明敏

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人城田冨雄、岩田洋明の上告理由第一、第二について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当して是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第三について

被上告人らの上告人に対する本訴請求は、訴外亡杉山与四郎の相続人である被上告人らが、上告人その他共同相続人とともに相続により共有持分権(被上告人らの持分割合は各七分の一)を取得した第一審判決別紙物件目録記載の各土地を順次訴外静岡市、同静岡県、同日本道路公団に売却し、その代金の受領を上告人に委任したところ、上告人が受任者として代金を受領したので、上告人に対し民法六四六条所定の受任者の受取物引渡義務の履行としてその交付を求めるというものであつて、所論相続回復請求権を行使する場合にはあたらず、その請求について相続回復請求権の消滅時効を定めた民法八八四条の適用の問題を生じる余地はない。もつとも、所論は、被上告人らの右各土地の相続(共有)持分権、ないしは相続財産譲渡の対価が相続財産に加えられとの前提のもとに右持分権売却の対価たる代金債権が侵害されたにもかかわらず、被上告人らが相続回復請求権によつてその侵害の排除を求めなかつたため、同請求権が民法八八四条所定の時効により消滅し、その結果土地相続持分権ないしこれに対応する代金債権を行使することができなくなり、これに伴つて上記委任契的に基づく受領代金の交付をも請求することができなくなつた、との趣旨を主張するものとも解される。しかし、原審が適法に確定した事実関係によれば、被上告人らは右各土地売却の時に共同相続人の一員としてそれぞれ共有持分権を有し、かつ、共有者の一員として右売買に加わつており、それらの権利についてなんらの侵害を受けていなかつたことが、明らかである。また、共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものであるところ(最高裁昭和五二年(オ)第五号同年九月一九日第二小法廷判決・裁判集民事一二一号二四七頁参照)、前記各土地を売却した際本件共同相続人の一部は上告人に代金受領を委任せずに自らこれを受領し、また、上告人に代金受領を委任した共同相続人もその一部は上告人から代金の交付を受けているなど、原審の適法に確定した事実関係のもとでは、右特別の事情もないことが明らかであるから、被上告人らは、代金債権を相続財産としてでなく固有の権利として取得したものというべきであり、したがつて、同債権について相続権侵害ということは考えられない。これを要するに、被上告人らの土地相続持分権、ないしその売却代金債権が相続財産に加えられるものとして同債権が侵害されたことを前提とする所論は、その前提を欠いて失当である。論旨は、採用することができない。

同第四について

記録によれば、訴外亡杉山与四郎の代襲相続人である訴外渡辺幸子、同田永泰子が前記各土地につき相続持分権を取得せず、右各土地について被上告人らの取得した相続持分権の持分割合は各七分の一であることは、原審で上告人及び被上告人らの双方が主張し、争いのない事実として適法に確定されていることが明らかである。所論は、原審で適法に確定された事実と異なる事実を主張して原判決を論難するものであつて、適法な上告理由にあたらない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 藤崎萬里 本山亨 戸田弘 中村治朗)

上告代理人城田冨雄、同岩田洋明の上告理由<省略>

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